
『ビルにきえたきつね』は、1960年代の高度経済成長期の新宿西口の風景から生まれた作品です。今では想像もできませんが、当時の新宿西口周辺には静かな浄水場があり、その周りには林や土手の景色が広がっていました。角野栄子さんは浄水場の裏手に住む友人を訪ねるため、土手の細道をよく歩いたそうです。その通り道にある不思議なおうちがありました。屋根に植木鉢が並び、壁には葉が広がっていて、まるで小さな森がぽつんと立っているように見えたとか。そのおうちが、作中で登場する芝居小屋のモデルになりました。
当時の新宿は、たくさんの自然が残されていて、イタチやウサギなど野生の動物たちも住んでいたそうです。
ある秋の日、栄子さんは一匹のイタチを見かけました。しばらくイタチとじっと見つめあった後、ふいっとイタチは茂みへと消えていきました。栄子さんは新宿に行くたび、高層ビルを見るたびに、このイタチのことを思い出すそうです。
身勝手な人間たちを前にきつねが感じる寂しさが、国井節さんの絵によってひときわ際立って描かれています。
『ビルにきえたきつね』(ポプラ社)
作/角野栄子 絵/国井節
1977年3月