角野栄子からみなさまへ
江戸川区の北小岩に3歳から23歳まで住んでいました。
幼い頃は、江戸川の土手が遊び場でした。春はれんげ草を編んで頭に飾ったり、土手をゴロゴロ転がったり、夏には泳いだり。外国に行くような気持ちで市川橋をわたって、国府台まで歩いていったこともあります。けんかしたり、駄々をこねて泣いたりしながら、日が暮れるまで、ひたすら遊びました。夢中で遊んでいるとき、体の中では、にぎやかに言葉が飛び交っていました。「あれ!」「なぜ?」「知りたーい!」あの頃、毎日、土にまみれて遊んだ思い出が、私の心の体幹を創ってくれたように思います。
この度、私の大切な思い出の地、江戸川のほとりの公園の中に、角野栄子児童文学館ができました。本当にうれしく光栄なことです。
この文学館を訪れたみなさんが、幼い日の私のように、心をときめかせ、わくわくする時間をすごしてくださいますように!不思議な色のコリコの町を歩いたら、次は自分の好きな本を選んでください。あなたが手にした本の中に、たくさんの冒険と不思議がつまっています。
「本をひらけば たのしい世界!」
この文学館が、皆さんの大切な思い出になりますように。
思い出は一生の宝物。未来を生きる力です。
【プロフィール】
1935年東京生まれ。3歳から23歳まで江戸川区北小岩で過ごす。出版社勤務を経て24歳からブラジルに2年間滞在。その体験を元に書いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で、1970年作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』は 1989年にスタジオジブリ作品としてアニメーション映画化された。2018年児童文学の「小さなノーベル賞」と言われる国際アンデルセン賞作家賞を受賞。翌年、江戸川区区民栄誉賞を受賞。
文学館の本について
自分自身で本を選び、おわりまで読んでほしい
物語を書くようになってまもなく、小学5年生の読者から一通の手紙が届きました。「初めて本をおわりまで読むことができました。とってもうれしい」と。私はいささか驚きました。幼い子ども向けに書いた短い童話だったからです。でも、驚くと同時に、うれしくて胸がいっぱいになりました。そして、強く思いました。
「子どもたちが最後まで読みたくなるお話を書きたい!」
あの苦しかった戦争の日々、私は物語の中に潜り込んで、ほっと息をついたものです。本は抱きしめていたい友達でした。その頃と違って、今、子どもたちのまわりには、本がたくさんあります。読み聞かせも大はやりです。でも、楽しく本を読んでもらったら、次は自分で本を選んで、自分の声で読んでほしい。それも「おわり」まで。自分で自由に選んで大好きになった本は、一生の友だちになるのですから。
本は目に見えない不思議な力を持っています。読む人の心に寄りそい、励まし続ける魔法のような力です。
この文学館には、読みだしたら「おわり」まで止まらなくなる、とびっきりおもしろい本をそろえたい!そう願って、いっしょうけんめい本を選びました。訪れたみなさんが、自分の魔法を見つけて持ち帰ってくれたら、これほど嬉しいことはありません。